社会保険労務士から見た雇用調整助成金の不正受給問題

ミーアキャット

イギリス株、インド株と依然、コロナ禍の終息が見えません。東京オリンピックの問題もかかえ、日本政府も混迷を極めているようです。東京都千代田区にございますBSP社会保険労務士法人は、2020年の2月から、コロナ対応の雇用調整助成金を何十社と申請してまいりました。現在も、新規の依頼は絶えませんが、その中でも、コラムの影響で、雇用調整助成金の返金に関する依頼も増えています。雇用調整助成金はどうしていつも不正の温床になってしまうのか。その背景をみていきましょう。

雇用調整助成金の歴史

雇用調整助成金は、第1次オイルショックの影響による不況の中、1975年に創設されました。
そしてその後、2008年、リーマンショックによる不況時には、中小企業向けに「中小企業緊急雇用安定助成金」という受給要件が緩和され受給率が高い助成金も派生しました。
2011年、東日本大震災による不況時にも活用され、今般のコロナ禍においては「コロナ特例」という名称で、最も緩い要件で多額の助成が行われることとなりました。
「緊急雇用安定助成金」という名称で、雇用保険非加入者にも同様の保障がなされています。

日本の労働市場の特異性

さて、欧米にもこのようなシステムは存在するのでしょうか。
欧米諸国にも同様のシステムはあります。ただし、欧米諸国の場合は、休業手当を支払う企業を助成するというよりも、経済的苦境に陥った個人を救うというマインドのほうが強いようです。
それが政策に顕著に表れるのがいわゆる高福祉国家です。
日本の場合、1970年代以降、内部労働市場が発展しました。
いわゆる日本型雇用と呼ばれるもので、その最も有名なものが「終身雇用」です。
日本では、個人の最低限度の生活を国が保障するのではなく、企業の福利厚生に求めることとなりました。
そして、企業には、広範な業務命令権が認められるとともに、解雇に関しては厳しい制限がかかるように判例法理が成立してきました。
雇用保障を助成金で支援するという考え方の基となります。

まとめ

今般のコロナ禍において、政府が積極的に行ったものは、企業に対する、セイフティネット4号などの融資、雇用調整助成金、そして持続化給付金であり、個人に対する定額給付金は微々たるものでした。
そして、雇用調整助成金は、従来より不正が横行しており、休業しても休業しなくとも、出勤簿1枚でなんの証明もいらないのです。
政府も緊急事態には施策にスピードが要請され、細かなチェック機能が働きません。こうして、不正受給案件はとどまることなく、いまなお申請され続けています。
今回は、日本の労働政策全体を俯瞰してみました。
国民を直接救済する制度がしっかりしていれば、逆に企業の不正の多くもなくなるかもしれません。
雇用と労働を考えるにおいては、その国の経済政策と向き合う必要があります。
東京都千代田区のBSP社会保険労務士法人も、コロナ後の雇用の在り方を模索し続けてまいります。