労務相談3:これは解雇すべきという事案や限度は?

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日本の労働法では解雇は難しいということを述べてきましたが、それでも毎日のように「解雇したいのだけれど・・・」というご相談をいただきます。東京都千代田区のBSP社会保険労務士法人、代表岸本が、これは解雇相当だという事案や限度をご説明してまいります。

解雇相当とされるためには

雇用システムが少しずつジョブ型へシフトしつつある昨今ですが、まだまだ日本型雇用の慣習がなくなるまでには至りません。
日本は1960年代頃から、年功序列、終身雇用、企業内労組を軸とした、いわゆるメンバーシップ型雇用システムを構築してきました。企業が従業員の一生の面倒を見るかわりに、時間外・休日労働や転勤、出向など広範な業務命令権(人事権)を掌握するという雇用形態です。
これに対し、欧米では、雇用はその職務(ジョブ)に紐づくため、その職務がなくなれば企業とのつながりはなくなり、職務に基づき次の職場に就きます。
どちらがいいというわけではありませんが、上記性質から日本では解雇が難しいことは容易に理解できるでしょう。
官公庁のパンフレットに記載される例として、横領や窃盗、傷害や暴力行為があった場合は、解雇が相当とみられる可能性は高いでしょう。
そうでない場合、単純な能力不足などに関しては、労働契約を解消することによって利益を得る側、すなわち企業側が、その能力不足が、いかに雇用継続に適さないかを主張立証しなければなりません。能力開発や配置転換の実績が問われることは言うまでもないでしょう。また、当該労働者や労働組合との話し合いの経緯、指導記録を残し、解雇の前には退職勧奨による合意退職を目指すことも、考慮要素の一つとなります。

あえて懲戒解雇が必要な場合も

弊社では、なるべくトラブルを拡大させないために、多くの場合は、解雇ではなく退職勧奨に基づく合意退職をお勧めしています。
ただし、かなり昔の話ですが、逆に解雇とすべき事例もございましたのでお伝えしたいと思います。
その企業は、ある大手運送会社の仕事のみを受注している物流会社でした。非違行為の多い従業員がいたのですが、解雇によって従業員を刺激することが更なるトラブルを招く恐れがあったため、あえて懲戒解雇とはせずに、退職勧奨によって企業を去ってもらったことがありました。
当該従業員の退職により、問題が終息したと思ったのもつかの間、その大手運送会社に出入りしている別の下請け物流会社に入社し、その従業員が当該職場に戻ってきたのです。懲戒解雇としておけば、その履歴書に基づいて、同職場に戻ってくるということはあり得なかったでしょう。
本当に質の悪い問題社員に対しては、毅然とした対処が必要だと痛烈に思ったことを覚えています。

まとめ

今回は、東京都千代田区のBSP社会保険労務士法人、代表岸本の苦い思い出を話させていただきました。
教訓として、解雇の前に退職勧奨を試みるのが定石ではありますが、あまりに企業秩序を乱す問題社員に対しては、就業規則に基づき毅然とした態度で解雇を断行することも必要と述べさせていただきます。